2019年7月4日に参議院議員選挙の公示があった。選挙戦では、ときどき女性蔑視発言などが出るが、今回の選挙戦でも出た。
 7月12日(金)、自民党の三重県連会長である三ツ矢憲生氏が、三重県選挙区から立候補している吉川有美(ゆうみ)氏の応援演説で、「1番大きな功績は子どもをつくったこと」と発言したことが、大きな問題になった。
 吉川さんは、2013年に三重県初の女性参院議員として当選したが、自民党公認候補が当選したのは、なんと21年ぶりの快挙だったという。翌年2014年には長女を出産したが、議員としての活動もきちんとなさったという。
 三ツ矢氏は、吉川氏について「6年前、本当に久しぶりに三重県で参院の議席を奪還できた。この6年間で吉川有美は何をしてきたのか。一番大きな功績はですね、子どもをつくったこと」「人口が増えるってのもありますが、本人はやっぱり子供をもって、母親になって、自分の子供の寝顔を見ながら、この子のためにいい国にしていきたい、いい地域にしていきたい。そういう思いが芽生えてきた」、「私はそういう思いが政治の原点ではないかなと思っております。そういう意味で、どうかこの一皮向けた吉川をぜひご支援賜りたいと思います」と発言したという。
 この発言だけを聞いていると、吉川さんは、当選して6年間、出産と子育てしかやってこず、議員としては特に功績はなかったとさえ聞こえる。
 三ツ矢氏の発言は、応援演説の対象となる候補者が男性であれば決してしない内容だった。仮に男性候補者について、このような発言をしたのであれば、男性は「出産して一皮むく」ことはできないのであるから、「議員として無能だ」と言っているようなものだ。決して三ツ矢氏はこのような応援演説をしないはずである。
 三ツ矢氏は、結局のところ、吉川氏を6年間の実績のある議員としてよりも「出産した女性」ということでしか評価しなかったのである。こんな人物が三重県連の会長だなんて、本当にレベルが知れる。横で聞いていた吉川氏はどんな気持ちで応援演説を聴いていたのか、聞きたいところではある。
 ところで「女性は子供を産むもの」としか理解していない政治家が、特に自民党には大勢いる。
 2003年6月26日鹿児島市内で開催された全日本私立幼稚園連合会九州地区会が少子化や子育てをテーマに開いた討論会で、森喜朗元首相は、「いいにくいことだけど、少子化のいま議論だからいいますが、子どもをたくさんつくった女性が将来、国がご苦労さまでしたといって面倒をみるっちゅうのが本来の福祉です」「ところが、子どもも一人もつくらない女性が、好き勝手とはいっちゃいかんけど、まさに自由を謳歌(おうか)して楽しんで、年とって税金で面倒みなさいちゅうのは、本当はおかしい」と発言した。なお、同じ場所で、早大生らの集団暴行事件について自民党の太田誠一行革推進本部長が「集団レイプする人は元気がある」と発言した。
 2007年1月27日、島根県松江市で開かれた自民党県議の集会で『これからの年金・福祉・医療の展望について』を議題に講演した際、当時の厚生労働大臣だった柳沢伯夫氏は、少子化対策について、「機械って言っちゃ申し訳ないけど、15歳から50歳の女性の数は決まっている。産む機械、装置の数は決まっているから、あとは一人頭で頑張ってもらうしかない」と女性を機械に例えた発言した。のちに柳澤氏は、「人口統計学の話をしていて、イメージを分かりやすくするために子供を産み出す装置という言葉を使った」と説明したが、野党が大臣の辞任を要求しても辞任しなかったという。柳沢氏が女性を機械に例えること自体について理解できないが、そもそも単純に「女性は子供を産むべきだ」としか考えていないようだ。
 2018年5月10日に行われた自民党細田派の定例会合で、加藤寛治衆院議員は、「結婚披露宴に出席した際には『必ず3人以上の子供を産み育てていただきたい。世の中には、いくら努力しても子どもに恵まれない方々もいます。無理を言うのは酷でありますから、そういう方々のために3人以上が必要なんですよ。結婚しなければ、子供が生まれず、人様の子供の税金で老人ホームに行くことになる』と呼び掛けている」と述べたという。加藤氏は会合の直後は「結婚式の時にお願いしたことを話しただけだ」と説明したが、お願いされた新婦の気持ちはどうだったのだろう。
 2018年6月26日、自民党の二階俊博幹事長は東京都内での講演後の質疑の際、講演の参加者から「自民党と政府が一体になって、早く結婚して早く子どもを産むように促進してもらいたい」と要請された。そして、「大変、素晴らしいご提案だと思います」として次のとおり発言した。

 「そのことに尽きると思うんですよね。しかし、戦前の、みんな食うや食わずで、戦中、戦後ね、そういう時代に、『子どもを産んだら大変だから、子どもを産まないようにしよう』といった人はないんだよ。この頃はね、『子どもを産まない方が幸せに送れるんじゃないか』と勝手なことを自分で考えてね。国全体が、この国の一員として、この船に乗っているんだからお互いに。だから、みんなが幸せになるためには、これは、やっぱり、子どもをたくさんを産んで、そして、国も栄えていくと、発展していくという方向にみんながしようじゃないかと。その方向付けですね。みんなで頑張ろうじゃないですか。食べるのに困るような家はないんですよ。実際は。一応はいろんなこと言いますけどね。今『今晩、飯を炊くのにお米が用意できない』という家は日本中にはないんですよ。だから、こんな素晴らしいというか、幸せな国はないんだから。自信持ってねという風にしたいもんですね。」

 この発言は失言ではなくて本音で、しかも自民党の基本的方針なのだろう。
 今年2019年2月3日、地元福岡県芦屋町で行った国政報告会で麻生太郎経済産業大臣は、「平均寿命が高くなっている。素晴らしいことですよ。いかにも年寄りが年とったのが悪いという変なのがいるが、間違っている。子どもを産まなかったほうが問題なんだから」と発言した。要するに日本が高齢化社会になったのは、女性が子供を産まないのが原因で責任は女性にあるとでも言いたいのだろう。
 これらの発言の都度、「失言だ」「撤回する」などとして終わっているようであるが、これらの自民党議員による「女性は子供を産むのが義務」という発言は、決して「失言」などではなく、むしろ国の女性政策の一番重要な柱なのである。つまり女性は、出産し子育てすることこそが一番の義務であって、それ以外に正社員になって働きたいとか、子供からの夢を実現したいとかなどの希望を一切持ってはいけないというのだろう。
 両性平等を謳った憲法になった1945年から75年も経った現在も、両性平等が実現していないどころか、今も「マタハラ」が横行しているのは、なんとも情けない話である。マタニティハラスメントは、結局のところ、「女性は妊娠・出産したら、仕事をやめて育児に専念するべきである」という考えのもとで行われているのだから、このような自民党の女性観が変わらない限り、マタハラ被害も無くなることはないと言えそうだ。