なにやらMeToo運動になぞらえて、KuTooという運動が始まっている。
 「kutu」つまり「靴」と、「Kutuu」つまり「苦痛」と、もじった意味なのだそうだ。
 女優の石川優実さんが、葬儀場で働いていたときハイヒールを履くよう命じられた経験により、仕事場で女性にハイヒールを強いる服装規定をなくそう、という呼びかけを始めた。
 すでに多くの署名があつまり、すでに厚生労働省に署名が提出された。
 集まった署名の数は1万8000とも3万とも言われているので、正確な数字は分からないが、大きな運動になっていることは間違いないだろう。
 実は私は知らなかったが、女性にのみヒール高いパンプスを着用することを義務付けている企業があるらしい。そのことによって女性のみが、外反母趾という健康被害や歩行不安定による転倒などという被害を被っているという。もちろん、例えば就職活動においても事実上パンプスの着用が強制されている企業もあるようだ。
 署名の提出を受け、この問題は国会でも取りざたされ、6月5日の衆議院厚労委員会で、立憲民主党の尾辻かな子議員の質問に対して根本厚労大臣はこのように答えたという。

 「厚生労働省としても、ひとりひとりの労働者が働きやすい就業環境を整備することが大変重要だと考えております。ハイヒールやパンプスの着用については、それぞれの業務の中で、それぞれの対応がなされてると思いますが、たとえば労働安全衛生の観点からは、腰痛や転倒事故に配慮して、服装や各事業上の対応が講じられるべきかと考えています。それぞれの職場がどのような状況にあるかということで、それぞれの職場での判断だと思います。」

 「義務づけられることについてどう思うか?というお話ですよね。女性にハイヒール・パンプスの着用を指示する、義務づける。これは、社会通念に照らして業務上必要かつ相当な範囲かと。ま、この辺なんだろうと思います。それぞれの業務の特性がありますから。」

 「ハイヒールやパンプスの着用を強制する、指示する。これは、いろんなケースがあると思いますが、社会通念に照らして業務上必要どうかというのは、社会慣習に関わることではないかなあと思います。だから、そういう動向は注視していきたいと思います。」

 これらの答弁を要約するに、「政府見解としては着用を義務付けるかどうかは、各企業の判断に任せ、業務上必要かつ相当な範囲かどうかは、社会慣習による」ということのように思われる。結局、政府は企業に対しなにも指導しないということなのだろう。
 しかし、この答弁のおかしいところは「女性がハイヒールやパンプスを着用しないとできない業務など存在するのか」ということである。
見た目が重視される飛行機の女性乗務員を調べると、特に歩行困難になる機内では、かかとの高さが3センチのパンプスに限られているし、スニーカーもOKという航空会社もあるという。
 特に女性の場合には妊娠しても産前休暇に入るまでは働き続けることもあり、そのような場合には、ハイヒールはもちろんパンプスの着用を義務付けること自体が違法だと言わざるを得ない。さらには産後と言えども、会社の帰りに保育園によって子供を受取に行く必要があるなどの場合には、パンプスやハイヒールでは問題な場合もあると思われる。
 ところで、厚生労働副大臣の高階恵美子さんは尾辻議員の質問に対して「一般的に言って、その業務の範囲で、安全性が確保される環境の中で労働者が働けるようにみんなで環境整備していくのが基本的な考え方ですので、強制されるものではないのだろうと思います。」と答えたという。彼女の方が、大臣よりも強制することの問題をしっかり認識しているようだ。
 女性にのみパンプスやハイヒールの着用を義務付ける企業があるとすれば、それは女性に対してのみ外見や容姿の良さを強制することに他ならない。
 もちろん、男性に対してのみ、夏でもスーツやネクタイを着用することを義務付ける企業があれば、それも早晩問題になるだろう。
 要は、女性でも男性でも働き安い靴や服を選ぶことができることが重要なのだろう。