2017年(平成29年)5月29日に「民法の一部を改正する法律」が成立しました。民法のうち債権関係の規定(契約など)については、896年(明治29年)に民法が制定された後120年間、ほとんど改正されませんでしたが、今日のように取引社会が大きく進展し変貌したことにより、その法的基礎である法律もこれに対応することが必要になったのです。
 この改正によって、一部の規定を除き、2020年4月1日から改正法が施行されます。これから順番に説明していきます。

第1,消滅時効の時効期間

1,現行法

 民法第3節「消滅時効」という項目に第166条から174条の2まで消滅時効を規定している。

 第166条
  1項 消滅時効は権利を行使することができる時から進行する。

 第167条
  1項 債権は10年間行使しないときは消滅する。

2,改正法

民法第3節「消滅時効」という項目のうち従来の170条から174条は削除された。

 第166条
  1項 債権は次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
   1 債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないとき。
   2 権利を行使することができる時から10年間行使しないとき。

 第167条
  人の生命又は身体の侵害による損害賠償請求権の消滅時効についての前条第1項第2号の規定の適用については、同号中「10年間」とあるのは「20年」とする。

3,改正のポイント

① 消滅時効の期間が基本的に「5年間」と短くされた。
 ただし、「知った時から」という要件が新たに入ったので、第1項の「知った時」と第2項の「権利を行使することができる時」との異なる場合には、どちらか早く到来する時期に、消滅時効が完成する。

② 5年よりも短い職業別の短期消滅時効の規定が削除されたことにより、基本的には一律に5年間とされた。
 例えば、ホテル・飲食店の1年間の代金(174条)、弁護士などの2年間の報酬(172条)、医師などの3年の診療報酬(170条)が削除された。

③ 不法行為による損害賠償請求権については民法724条の規定があるが、民法167条の新設により、民法724条の2が追加された。

 第724条
:不法行為による損害賠償の請求権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。

 1 被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から3年間行使しないとき
 2 不法行為の時から20年間行使しないとき

 第724条の2
:人の生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求権の消滅時効についての前条第1号の規定の適用については、同号中「3年間」とあるのは、「5年間」とする。

④ 商法第522条の消滅時効5年も削除された。
 従来「商行為によって生じた債権は5年間行使しないときは時効によって消滅する」とされていたのが、民法166条2項の「権利を行使することができる時から10年間行使しないとき」が適用されることになった。

⑤ 賃金の消滅時効についての問題
 民法174条は、「次に掲げる債権は1年間行使しないときは、消滅する」とし、その1号では「月又はこれより短い時期によって定めた使用人の給料に係る債権」として労働者の賃金については1年間の短期消滅時効を規定していた。

 他方、労働基準法第115条では、「この法律の規定による賃金、災害補償その他の請求権は2年間、この法律の規定による退職手当の請求権は5年間行わない場合においては、時効によって消滅する」とされている。
 このような状況になったのは、労働者保護のために民法の1年の消滅時効では短か過ぎるために、特別法として労基法によって2年に延長したという経緯があった。
今回の民法改正により職業別の短期消滅時効が削除され、一律に5年に延長されたことで、労基法の2年間という規定が民法の5年間よりも短くなってしまうという逆転現象が生じたのである。このため、労働者側は民法の5年を主張し、経営者側は労基法2年の維持を主張するという状況になっている。
 現在厚生労働省の労働政策審議会労働条件分科会にて審議されており、2019年12月27日の審議報告書によれば、「民法の改正に従い5年とする。但し、当分の間、3年間とする」との意見が出されたようである。
 この案は経営者の記録保存義務による負担を軽減するという企業側に配慮した結果であるが、そもそも労働者の賃金について不払いをした企業に配慮する必要などないと言うべきであって、また民法で一律に5年間とされたにもかかわらず、保護の必要性の高い賃金についてのみ、5年よりも短い3年にするという合理的な必要性はないものというべきである。

4,適用の範囲
 上記の改正は、附則10条によって規定されている。

附則10条(時効に関する経過措置)
「施行日前に債権が生じた場合(施行日以後に債権が生じた場合であって、その原因である法律行為が施行日前にされたときを含む)における債権の消滅時効の援用については、新法第145条の規定にかかわらず、なお従前の例による。」
 なお、145条とは「時効は当事者が援用しなければ、裁判所がこれによって裁判することができない」という規定であり、従来の規定とほぼ同文である。