- Chi ha tempo,non aspetti tempo.
時間がある人は、時間を待っていない
「日本では、『今日できることを明日に延ばすな』とか『思い立ったが吉日』とかのことわざがあるね、要は『時間がある者は、次の時間を当てにするな』ということだろう」
「このことわざは、本当に大切だ。だって、良いことを思いついても、数日経つと忘れてしまうから、思いついた日にやっておかないと、あとで後悔することが多いんだ。この前もずっとなぜなんだろうと考えていた数学の問題の解答を思いついたんだけど、翌日になったら、その答えを忘れていたんだ、せっかく思いついたのに忘れてしまうなんて、ショックだった」
「ちょっと待って!まるで君のように、このことわざは忘れっぽい人のためにあると考えているの?多分、違うよ。」
「じゃ、なに?」
「もっと哲学的で、人間には誰でも時間があるが、明日死ぬかもしれないし、今日と同じように時間があるかどうかは誰にも分からない、という人間としての行動哲学を言っているんだよ。」
「本当?」
- Non si era mai visto un processo cosi' grande, 475 imputati, centinaia di avvocati, centinaia di giornalisti e televisioni arrivati a Palermo.
こんな大きな裁判をみたことがない、パレルモに475人の被告人、数百人の弁護士、そして数百人ものジャーナリストやテレビ局が来たんだ。
「この発言は、シチリアのマフィアと闘った二人の男性について書いたイタリアの本に書いてあった文章だ。だから、趣旨は同じだと思う。」
2人の男性とは、ジョバンニ・ファルコーネ(1938年5月~19912年5月23日)とパオロ・ボルセリーノ(1940年1月~1992年7月19日)のことで二人ともパレルモで生まれ、ファルコーネは1965年に判事になり、マフィア裁判の専門家になり、ボルセリーノは、1962年に裁判官になりマフィア構成員を逮捕するなどの成果を上げたという。
1980年頃から2人は、もう一人の治安判事キンニーチと共に、マフィアの麻薬などのコネクションを調査し、起訴のために捜査するようになった。しかし、このことを知ったマフィア、コーザ・ノストラ(cosa nostra)は、1983年キンニーチを暗殺した。
しかし、2人はその後も、捜査を続け起訴に持ち込み、パレルモの裁判所で1986年2月第1回法廷が開廷されたが、このときの被告人は475人だったという。その後1987年12月に結審し、終身刑も含めて有罪判決がでて、トータルの懲役刑年は2665年だった。このように大量のマフィアを有罪にしたので、マフィア大裁判(マキシ・プロチェッソmaxi processo)と呼ばれた。そして、シチリアでは反マフィアの闘いが一層大きくなったという。なお、2019年のイタリア映画、裏切り(Il traditore:邦題シチリアーノ裏切りの美学)でも、この事件が扱われているよ。」
「裁判官という立場であって、とても危険な状況なのに、マフィア撲滅運動に頑張ったんだね!」
「しかし、ファルコーネは1992年5月23日、パレルモ空港から市街に車で向かう高速道路上で、マフィアが道路下に仕掛けた爆薬で、ファルコーネ、妻、護衛の警察官の5人が殺されたという。さらに同じ年の7月19日、ボルセリーノも車にマフィアの仕掛けた爆弾で殺され、護衛の5人の警官も一緒に殺され た。この2人を記念して、パレルモ空港の名前は『ファルコーネ・ボルセリーノ国際空港』と呼ばれるようになったんだ。」
「でも、今は、我々日本人もシチリアに安全に旅行することができし、パレルモのホテルに泊まったり、あちこち観光することもできるから、もうマフィアはいなくなったんじゃないの?」
「本当にそうなのかな?」
- Stiamo combattendo veramente la mafia
私達は全力でマフィアと闘っています
「この言葉は、ヴィルジニア・ラッジ(Virginia Raggi)が言った言葉だ。
彼女はローマで弁護士として活動していたが、2013年からローマの市議会議員になり、2016年6月にローマ市長に当選した。永遠の都といわれるローマでの初めての女性市長、38歳の若さ、7歳になる子がいること、5つ星運動の支援、という実に話題性の多い登場だったね。日本のマスコミも大きく報道していたよ。」
「当時、ローマは130億ユーロの負債があり、市内にはゴミがあふれ、交通は不便で、郊外は犯罪が多いという状況だったという。
特にローマにはマフィア・カピターレ(mafia capitale:首都ローマのマフィアというい意味)がいて、市政を大きく歪めていたそうだ。実際、2014年にはマフィア・カピターレのボス、マッシモ・カルミナーティが逮捕されたという報道もあったね。」
「そうなんだ。イタリアのマフィアはローマ市民にとって脅威だったというよ。彼女は就任3年目の2019年6月に姉妹都市の東京に来て、インタビューをうけ、その様子がネットにも流れているよ。
彼女はマフィアについて、インタビューで、『今、私達は全力でマフィアと闘っています』と述べて、『ローマにはたくさんの犯罪組織があり、何十年もの間この組織を撲滅することができませんでしたし、ローマは彼らの食い物になっていて、彼らは多くの経済的な権益をえているのです。
"A Roma ci sono tante organizzazioni criminali. Nel corso degli ultimi decenni non sono mai state sotacolate e si sono mangiate la città, si sono mangiate una fetta di potere economico "
と発言しているね。確かに2008年のイタリア映画ゴモラ(Gomorra)などを見ていると、イタリアはシチリアだけでなく、ローマやナポリなど全国的にマフィアとの闘いが必要なんだと分かるね。」
「ところで話が変わるけど、マスコミによると、2024年のオリンピックの開催地の候補をローマが下りたことで、彼女は批判を受けたとも言われたらしいけど。」
「それはどうかな。2020年8月(コロナのため実際には2021年8月に実施)の東京オリンピックでは、開催費用が会計検査院の調査報告によると3兆6845億円で、なんと予算の5倍もかかった。それに多額の無駄使いや招致に絡む収賄事件も発覚した。しかも建設した施設の利用も決まっていないため維持管理費用の支払いが今も続いている。このような異常事態を受けて札幌市は2030年開催予定の冬季オリンピックの招致を断念したよ。もうグチャグチャになっている。」
「そういう意味では、ローマは早くから候補地を断念して良かったかもしれないね。」
「ところで彼女は女性だけど、このインタビューでは、彼女は、avvocato(弁護士)、sindaco(市長)などと発音しているね。イタリア語では、女性弁護士はavvocata、avvocatessa、女性の市長はsindacaと言われているよね。イタリア語は言語上のジェンダーが激しいけど、こうやって少しずつ無くなっていくことは良いことだね。」
「彼女はこのインタビューで、女性の政治家についても聞かれて、『一般的なことではないが、』と前置きしているものの、『女性は他人のことに良く気がつき、具体的に実行している、そして問題に直接的に立ち向かう能力がある』と言っていたね。」
「やっぱり女性の政治家は必要だと思うよ。」
- Non bene convenient nec in una sede morantur/ maiestas et amor
威厳と恋、この二つは両立することが難しく、ひとつところに居続けることはできないものだ
「これはオウィディウスの変身物語の第2巻にある言葉だそうだ。
この変身物語によると、神々の王ユピテル(ゼウス)が、フェニキアの古代首都テュロスの王女であるエウロペに恋をして、彼女を誘惑するために、ユピテルは自ら白い牡牛に変身したという。そしてエウロペを背中に乗せて、海を越えてクレタ島まで連れ去ったという。だから、このユピテルの言葉は、神々の王ともあろう男が、女のために牛に身をやつしたことを、このように表現したんだね。」
「なるほど、つまりユピテルは、人間に似た神の姿のままでは、エウロペに愛されることはなかったんだね。男性としての魅力がなかったので、牡牛に変身して、自分の強いところを見せるしかなかったということかな。でも、なぜエウロペが牛の自分に恋すると信じたのか、分からないね。それに牛の背中に乗るって怖いよね。そんな怖い思いを女性のエウロペにさせるなんて、理解できない。」
「このときの様子を、ティツィアーノ(1490年~1576年)が『エウロペの略奪』という題で油絵を画いているよ。とても有名だそうだ。1559年頃にスペイン王のフェリペ2世から制作を依頼され、この王の子孫の繁栄を願って画いたと言われている。」
「そうか、イタリアの巨匠のティツィアーノが、フェリペ2世のために画いたのなら、ユピテルを重ねることは理解できるよ。いずれにしろ、恋を得ようとしたら、素のままの自分を見せることが大切で、外面的な威厳などに構っていられないということだね。」
「そうだね、でもフェリペ2世は、王としての威厳を捨てようとしても、牛に変身できないしね。この絵をみて、どう思ったのかな。」