先回に引き続き「婚姻」について見てみましょう。

「第788条
 妻は婚姻に因って夫の家に入る。」
この規定は、「家制度」と採用している当然の結果とされています。但し、外国人と婚姻した場合には配偶者の外国籍には入らないとして例外が認められています。

「第789条
①妻は夫と同居する義務を負う。
②夫は妻をして同居させることを要する。」
この規定は「夫婦が同居しなければ、婚姻の目的をなすことができない」ということによる当然の規定とされています。しかし、この場合の同居義務は妻にのみあり、夫にはありません。梅教授は「夫が自己の便宜に従い妻と同居せず、仮にその請求が妻からあったもこれに応じないことは稀ではない。これは男尊女卑の因習によることであるが、今日の時勢にあってはこのようなことを是認できない」などと述べています。」

「第790条
   夫婦は互いに扶養をなす義務を負う 梅教授によれば「夫婦は偕老同穴を約する者なるが故に、もし一方が資力なきため自ら生活することができない場合には、他の一方がこれを助けるべきは理の当然とである」と書いています。なるほど、こういう場合には夫にも妻にも義務があるのですね。

「第798条
 夫は婚姻より生ずる一切の費用を負担する。
   但し、妻が戸主たるときは妻が負担する。」
梅教授によれば「夫は一家の主宰にして、その戸主たる場合はもちろん、戸主でない場合においても夫が財産を有してこれをもって妻子を養うのが通例としているので、婚姻より生じる費用は原則として夫の負担とするもは当然である」としています。

「第801条
 夫は妻の財産を管理する。」
梅教授によれば「財産の管理は夫が概して妻よりもこれをするに適している者であるが故に財産に関する重大な行為は妻は夫の許可を受けるものとした。これはもとより夫権を重んじた結果である」と説明しています。

「第802条
   夫が妻のために借財をなし、妻の財産を譲渡し、これを担保に供し、第602条の期間を超えてその賃貸をなすには妻の承諾を要す。」
このように結婚すると妻は自分の財産についてさえも夫に管理どころか処分されてしまうという大変不利な状況に置かれます。すでに明治民法の総則編の第14条、16条などで見たようにそもそも妻には行為能力がないとされているので、801条や802条の規定は当然のことです。

「第808条
   夫婦はその協議をもって離婚をすることができる。」
梅教授によれば「婚姻はもともと当事者の契約によるので、その契約を解消することができるのは理の当然である」としています。

「第813条
 夫婦の一方は左の場合に限り離婚の訴えを提起することができる。
1,配偶者が重婚をなしたるとき
2,妻が姦通をしたとき
3,夫が姦通罪によって刑に処せられたとき 」
4,配偶者が偽造、賄賂・・関する罪、若しくは刑法75条・・の罪によって刑に処せられたとき
5,配偶者より同居に堪えざる虐待または重大な侮辱を受けたとき
6,配偶者より悪意をもって遺棄されたとき
7,配偶者の直系尊属より虐待または重大な侮辱を受けたとき
8,配偶者が自己の直系尊属に対して虐待をなしまたはこれに重大な侮辱を加えたとき
9,配偶者の生死が3年以上分明ならざるとき

 この条文の2項と3項を比較すると、一見して妻の方に重い責任が課せられていることが分かるので、女性に対する差別だと思われます。この点につき、梅教授は次のように説明しています。「妻が婚姻より生ずる第1の義務に背くことであるから、これが離婚の原因とされるのは当然である。ただ、妻に限りこの義務を負わせ夫に同一の義務を負わせないことは不公平であると言わざるを得ない。我が邦においては従来法律上の妻の外に妾なるものを認め、これをもって2等親族とするに至っていたので、俄に欧米の進歩した主義を採用することができない。この不公平は遠くない将来において必ず廃止せられるべきであると信じている」というものです。しかし、この条文は昭和22年まで生き続けていました。
 この条文の5項についても梅教授はおもしろいことを書いています。「例えば、中等以下の社会にあって夫が軽く妻の臀部を打ちたるが如き行為は敢えて本号に入らないと言えるが、妻が夫に対して同一の所行をなすと、これは重大な侮辱を加えたものとして離婚を請求することができる。しかし社会の進歩するに従って世論はこのような区別を認めないようになるだろう。また例えば、現今においては夫が妻と同居する場合においてその家に妾を蓄えるも妻は本号の適用によって離婚の訴えを提起することができないことが多いと思うが、社会の進歩するに従って、必ず本号の適用あるものとするに至るべきだ。」
 つまり、離婚原因は社会の発展や進歩に従って変化するものであると認めているのですね。