LGBT運動の大きな柱の1つは,トランスジェンダーの他には「同性婚」と思われる。
 同性婚については、世界的にみると主に欧米圏で認められているに過ぎず、イスラム圏やロシア、アフリカ諸国等では、まだまだのようで,世界の人口に占める割合は20%に満たない。また「同性婚」とは言っても、正確には異性婚とは同等ではない制度の国もある。イタリアでは「同性婚」は認められていないので紹介したいと思う。
 なお、イタリアでは、「同性愛」は一般的に「GAY」と表現されており、レスビアンも含む概念である。

1,イタリアの同性カップル法

 イタリアは、カトリックの総本山であるヴァチカンがあるため、イタリア人の日常生活は教会と深いつながりがあり、婚姻は「秘蹟」の一つとして教会の管轄下にあった。
 1947年12月に制定されたイタリア憲法第7条では、「国家とカトリック教会は,各自その領域において独立・最高である。両者の関係はラテラノ条約により規律される」等と規定されている。
 なお、ラテラノ条約は1929年ムッソリーニ政権下で締結され,このときにバチカン市国が認められたという。
 1984年2月に締結された政教条約の第8条では、「教会法の規範に従って結ばれた婚姻契約は、関連する証明書が市庁舎に公示され、市民権登録に記載されるという条件のもとに国法上の効力を承認する。主任司祭またはその代理人は、挙式後直ちに契約当事者に対し,夫婦の権利及び義務に関する民法典の条文を朗読して婚姻の国法上の効力を説明し、つづいて婚姻証明書の正本を2部作成する」などと詳細な手続きが規定されている(海外の宗教事情に関する調査報告書より)。
 このような手続きで行われる婚姻は「matrimonioマトリモニオ」と呼ばれる。

 イタリアでは、2016年5月に「Unione civile(ウニオーネ・チビレ)」という法律76号法が制定された。英語的には「シビル・ユニオン」と表現されている。
 この「シビル・ユニオン」は「民事的結合」と翻訳されて分かりにくいが、要は、「婚姻」は教会法の規範によるものであり、他方「シビル・ユニオン」は「市庁舎における手続き」のみで効力を生じ、教会での挙式や教会法は関係がないということである。
「婚姻」と「シビル・ユニオン」との相違点は大まかに以下のようである。

 第1に、シビル・ユニオンは同性のカップルの場合をいい、婚姻は異なる性によるカップルによる。
 第2に、シビル・ユニオンは「公示」手続きは不要であるが、婚姻は公示することが必要である。
 第3に、カップル間の権利義務は似ているが、シビル・ユニオンでは、養子縁組をすることができないこと、誠実義務(貞操義務)がないことが特徴的である。
 第4に、婚姻しているカップルが離婚したい場合には6ヶ月から12ヶ月の別居の後でしか離婚請求できないが、シビル・ユニオンの場合には市庁舎に対してすぐに離婚請求することができ、3ヶ月後にはカップルを解消することができる。

2、「親になる権利」

 2023年3月20日、性的少数者の支援団体がミラノのスカラ座前広場でデモや集会を行い、同性婚カップルに対し親になる権利を認めるよう要求した。
 女性の同性カップルであれば、精子の提供をしてくれる男性がいれば、カップルの女性本人が妊娠し出産することができ、まさに「実子」として出生届を提出することができるので、このような要求はない。
 しかし、シビル・ユニオンでは養子縁組が認められておらず、「卵子」を持たないため妊娠出産することができない男性カップルにとっては、第3者の女性が妊娠し出産する必要がある。
 ところでイタリアでは2004年に「生殖補助医療法」として40号法が成立し、代理母出産が如何なる方法であれ禁止されており、違反した場合には3ヶ月から2年の懲役と罰金刑を受けることになっている。
 従って、男性カップルは、同性婚が認められている外国に行って婚姻手続きをし、さらに代理母出産が許されている外国に行って、子を作っているのが実情だという。
そこで同性婚カップルが外国での代理母出産で生まれた子どもの出生届を,イタリア国内にて出すことになるが、届出用紙には「父親」と「母親」と記載する欄があるため、男性カップルは「母親」欄の記載ができない。
 この点について、ローマやミラノでは出生届に「親1」「親2」という記載欄を設ける制度を導入したが、デモのあった1週間前に、内務省がミラノ市に対して、この制度の撤廃を求めた。そのため男性同性婚のカップルが、この撤廃に抗議してデモをした。実際,このデモでは市長に対して「僕は母親ではないと、私達の子どもに説明せよ」と訴えるものであった。また、「男性二人の両親」を意味する「omogenitori」という語ができ、すでにマスコミでは使用されている。
なお、結婚(matrimonio)という言葉は「Mater(母)」から派生した言葉であるから、この男性のカップルの要求が認められると、「母親となるべき女性のいないカップル」ができることになるが、これは「婚姻」という概念から外れるのではないかと、少し思う。

3,代理母出産

 代理母出産が考え出されたのは、そもそも子宮を持たない女性のための救済措置であって、男性の為ではないとされている。
 代理母出産は、代理母となる女性に対し妊娠という健康上大きな負担を掛け、また出産という命に関わることを女性に強いることであり、女性の身体を商品化し女性の尊厳を否定するものである。女性の体を工場に喩え、子どもを子宮で製造し、できた製品(子ども)を工場から搬出して依頼者に売るということから「人身売買」だとの意見もある。
 実際、代理母契約をした女性は中絶することができるのか、妊娠中に着床前診断を受ける義務があるのか、着床前診断で障害が判明した場合代理母には中絶する義務があるのか、出産した子に障害があった場合依頼者が子を引き取らないことができるのか、代理母は出産した子を養育する義務や権利があるのか、代理母が出産により死亡した場合や死産だった場合契約はどうなるのか、子どもの出自を知る権利をどのように保障するのかなど様々な問題が生じている。
 ウクライナでは、外国人との商業的代理出産が許可されているため、ロシアやジョージアなどと共に国際的な代理出産の拠点の一つになっており、費用も比較的安価ということで「ウクライナは世界の赤ちゃんオンラインストアになった」とも言われているが、2014年のウクライナ紛争以降、避難してきた若い女性が金を得るため業者と契約する事例が増加し,他方、引き取手がウクライナに入国することが困難になったため捨て子が増えるという問題も起きている。
 またインドでは、代理母出産は禁止されていなかったが、「商業的な代理出産は,貧しく教育を受けていない女性を、富裕層による搾取の危険にさらしている」と女性人権活動家から非難されており、2019年には商業的な代理出産を禁止する法律が可決されたという。この中には、ゲイの依頼による代理母出産を禁止する内容も含まれているという。
 代理母出産を仲介する業者が跋扈し、海外に依頼すると費用はアジアでは100万円からロシアやアメリカでは600万円から1000万円位が相場であり、大きな「レインボービジネス」の市場が存在するという。
なお、日弁連は2000年3月に「生殖医療技術の利用に対する法的規制に関する提言」を出したが,その中では代理母出産を禁止するよう提言している。

 日本でも同性婚の法制化を求める運動が盛んであるが、このような代理母出産も要求することになるのか、注目したい。