1,この本の標題

  2024年4月3日にこの本が産経新聞出版から発売されることを知り、さらに、異常なバッシングのため一般書店では販売されないことを知り、アマゾンで予約購入した。

  実は、この本は、今年1月24日KADOKAWAから刊行される予定で、そのときのの標題は、「あの子もトランスジェンダーになった SNSで伝染する性転換ブームの悲劇」だった。少し標題、副題が変わったが、新旧の標題をみても、そこに違和感を持ったからである。

  違和感の第1は、この日本語の標題の「トランスジェダー」に「なった」、あるいは、「なりたい」という表現で、私の認識を超えていて、「トランスジェンダーって、なりたいと思えばなれるものなの?」という疑問を持ったことだ。

  第2は、「少女」について書かれているものであって「少年」あるいは「大人」についての本ではないということだった。実際、私の狭い認識の範囲では、トランスジェンダーといえば、「成人した生物学的男性の性自認が女性」のケースがほとんどだったので、少女が問題になるとは分からなかったからである。

2,本の反響など

  この本の英語の原題は「IRREVERSIBLE DAMEGE  The Transgender Craze Seducing Our Daughters」という。日本語訳では「不可逆的な損害 私達の娘を誘惑するトランスジェンダーの狂気」とでも言うべきか。

  著者のアビゲイル・シュライアーは、独立系ジャーナリストと紹介されているが、イェール大学法科大学院で法務博士の学位も取得し弁護士の資格も有していると言われる。

  訳者は、精神科医の岩波明であり,主な研究分野は、精神疾患の認知機能、発達障害とされている。彼は、この本の終わりに「「解説」を書いているが,最後に「(本書で提起された)この問題は、本来医療の問題である。多数の症例を集めた客観的なデータに基づいて性別違和の定義を確立し、標準的な治療方針を得ることがなによりも求められている」としている。

 この原書は2020年6月にアメリカで発売され、発行部数が12万部を超えるヒット作となったそうだ。すでにチェコ語、フランス語、ドイツ語、ヘブライ語、スペイン語、スウェーデン語,トルコ語などに翻訳されているという。

  そしてこの本は、エコノミスト誌とタイムズ誌(ロンドン)の年間ベストブックに選ばれたという。

  しかし、その一方でこの本はトランスジェンダーの人権を否定するものとして、その活動家や左翼団体から執拗で頻繁な攻撃を受け、その激しい恫喝により、通販大手のアマゾンはこの本の広告を一時停止せざるを得ないほどだったという。

 日本においても、KADOKAWAに対する攻撃はすさまじく,同社は出版を断念した。その後、産経新聞出版が発行することになったが、同新聞は、「本書の発売をめぐっては、産経新聞出版と複数の書店に対して『出版中止』を要求する脅迫がありました。・・・脅迫によって発売を中止することは出版文化と表現の自由を脅かす前例を作ることになり得ると考え、産経新聞出版では予定通り刊行しました」とその出版に至る決意を示した。

  そして2024年3月31日には産経新聞は「アマゾンで本の売れ筋ランキング1位になりました」と発表している。

3,この本の書きたいこと

  この本はこのように書いている。

「かつては性同一性障害と呼ばれていた性別違和は、自身の生物学的な性別に激しい不快感をいだき続けるのが特徴だ。概ね2歳から4歳の幼少期に発現するが、思春期にとりわけ顕著に見られる場合もある。・・・そのような状態に悩まされるのは歴史的にみて全人口からすると、ごくわずかな人々(およそ0.01%)で、その殆どが男児だ。現に、2012年までの科学論文では11歳から21歳の女児で性別違和を発現した例は示されていなかった。」とある(同書p15)。

  なるほど、私のもった違和感は違っていない。その後、このように続く。

「この10年で状況は一変した。西欧諸国では性別違和を訴えてトランスジェンダーを自認する思春期の少女たちが急増している。医学史上始めて、そのように自認する人々の中に女性として生まれた少女たちが現れただけでなく、全体の大きな割合を占めるようになったのだ」とある。ちなみに、この本が最初にアメリカで発行されたのは2020年だから、「この10年」というのは、2010年以降を指すと思われる。

 著者はこのように言う。「どうしてなのか。何が起こったのだろう。性別違和に悩まされる人々の中で常に少数派だった思春期の年代の少女たちが、なぜ多数派を形成するに至ったのか?」(同書p15)。

 まさにその疑問を解明することこそが著者の執筆動機なのである。

  私はここまで読んで、この本はトランスジェンダーそのものを調査し分析したものではなく、「2010年以降のアメリカで、特に思春期の少女たちを取り巻く環境がどのように変化したのか」ということを探求したものだと感じた。

  著者は、この疑問を解明すべく約200人近くの人にインタビューし、50家族から話しを聞くなどの活動をしたそうだ。

4.この本の内容

  本書の内容は、363ページに及ぶ重厚な本であり、かつ、余りにも濃いので私には要約する能力はないが、このように書いている。

「今日、思春期の少女たちが多大な苦悩を抱えていることに目を向けることから始める必要がある。アメリカやイギリス、カナダでは、10代の若者が心理学者のジョナサン・ハイトのいう”メンタルヘルス”クライシス~不安症やうつ病の患者数の記録的な数値がそれを物語っている~に陥っている。2009年から2017年にかけて、自殺を考えたことのある高校生の数については、2005年から2014年にかけて37%増加している。ここで犠牲になっているのは、男子より女子だ。うつ病を経験した男子の3倍にのぼる。・・10代の女子全体で自傷行為に及んだ数が62%も増加している。10代前半、10歳から14歳の女子に関していうと、2010年以降、189%、わずか6年前の3倍近く増加している」と、統計上の数字が紹介されている(同書p25)。

  そして「不安症やうつ病、自傷行為が急激に増えたのはなぜか」という質問に対して、ジョナサン・ハイトは「原因はSNSだ」と即座に答えたという。「そして、2007年に・・」 iphoneが発売され、その10年後に2018年にはティーンエイジャーの95%がスマートフォンを持つようになり、その45%が、ほぼ1日中スマートフォンをいじっているとの報告がある。・・これらには拒食症、リストカット、自殺など自傷行為を促す様々なコンテンツが投稿されている。」とのことである。

 なお、日本の現状はどうなんだろう、と私は疑問を持った。

 女性については、このように書かれている。

 私流にまとめると、「思春期はとりわけ女子にとっては試練のときだ。子どもの時には男子と遜色のない体格と体力でいることができたのに、初潮が始まり毎月生理痛に悩まされる、胸が膨らみはじめ男性の関心を引くようになってしまう、脂肪で丸みのある体つきになるなど内側から攻撃してくる身体の違和感を覚え、ストレスを感じる。しかし対処方法がない。他方、毎日スマートフォンという友人と付き合っているので、実際の人との会話などが少なくなり、少女の恋愛やキス、セックスなどの経験者はかつてより少なくなった。」

  そして「トランスジェンダーを自認する思春期の女子の多くは、性体験や恋愛体験が一度もない。キスでさえ、相手が男子であれ、女子であれ一度もしたことがない。人生経験の乏しさを、彼女たちは、性に関する語彙やそれまでなかったジェンダー思想で補っている。インターネットという洞窟の奥では、ヒーラーの一団が、彼女たちに助言を授けようと手ぐすね引いて待っている。」と続けている(同書p54)。

  そして、「この少女たちは、男性になりたいのではなく、女性の体が嫌なのだ」というのが結論だと思われる。

 だから、この本は、スマートフォンをいつもいじっている子ども、特に思春期を迎えた娘をもっている親に対して、どのように向き合ったら良いのかを、アドバイスする本ではないかと思う。

5,私の感想

 この本で書かれたような事実ないし事象が日本で流行しているかどうかは知らない。

  しかし、日本でも、子どもの時からスマホを長時間に亘りいじっているケースはあるに違いない。ネットの世界では、いろいろな性に関する情報もあふれているだろう。またトランスジェンダーになるために、テストステロンなどのホルモン治療を受けること、乳房切除(トップ手術)や陰茎形成術(ボトム手術)など各種の手術のことなどもネットで検索が可能であろうし、そういう相談をしたければ誰にアクセスしたら良いかも分かるのだろう。なので、仮に、この本にあるような事態が日本でも発生した場合、どのように対応したらよいのか、考えさせてくれる。

  この本はトランスジェンダーに対する差別を助長するようないわゆる「ヘイト」本ではない。

  どのような人物あるいは団体が、著者や出版社,書店などに対して激しく攻撃し誹謗中傷を加え、また出版停止や販売停止などを要求したのかは、分からないが、私は、表現の自由を最大限尊重する社会であって欲しいと願う。

以 上