憲法24条第2項は、つぎのような条文です。

 「配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない。」

 この条項に対応するベアテの草案は次のようなものでした。

 「これらの原理に反する法律は廃止され、それに代わって、配偶者の選択、財産権、相続、本拠の選択、離婚並びに婚姻および家庭に関するその他の事項を、個人の尊厳と両性の本質的平等の見地に立って定める法律が制定さるべきである。」

 比較すると分かりますが、日本側は、ベアテの書いた草案をほとんど採用しています。
 問題は、「法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して制定されなければならない」という条項がきちんと遵守されたのかどうかです。ベアテは、実は実際に法律を考えで制定するのは男性なので、本当に女性のために法律を制定してくれるのか心配だったそうです。でも、その心配は当たったと言えるかもしれません。
 婚姻や家族について定めている民法を見てみましょう。
 憲法第24条を知っている人はたいてい、今の民法は戦後制定されたのだと思っているでしょう。でも違うのです。今の民法は1896年(明治29年)4月に制定され、1898年(明治31年)7月に施行されたものです。そのため、このときに制定された民法を「明治民法」と呼んでいます。現在の民法は、明治民法のうち家族法(身分法とも言われていました)、具体的には親族編と相続編が、1947年(昭和22年)に改正され、1948年(昭和23年)1月に施行されたものに過ぎません。実は私が大学で学習をしたとき、民法は全部文語調でカタカナで書いてありました。これが現在のようにひらがなを使った現代語になったのは、なんと2004年(平成16年)なのです。
 ところで明治民法の家族法は「家」制度を基本原理に組み立てられており、家の長、つまり家長が「家」を支配・統制しており、その中で女性はまったく権利がありませんでした。そして相続というのは「家」の承継を意味するのであって、いわゆる長子たる男性が単独で「家督」を相続するものとされていました。従って明治民法の家族法には「個人」という概念はまったくありませんでした。
 憲法第24条は、まさに旧来の家制度をすべて廃止し、個人の尊厳と両性の本質的平等を基礎に再構成され、女性が親の強制や男性の支配から解放される諸権利を定めるべきだったのです。
 ところで、明治民法の家族法以外の分野で条文が改正され、この憲法24条の表現がそのまま採用された条文があります。それは民法第2条で、「この法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等を旨として解釈しなければならない。」と定められています。
 この条文は民法の総則編におかれていますから、単に親族・相続の分野にとどまらず、物権編、債権編の財産における分野も含め民法全般の条文の解釈のための原理となっているのです。これは非常に重要な規定です。たとえば、労働契約において女性であることを理由に、昇進・昇格、賃金、職種などを差別することは許されません。賃貸借契約において女性であることを理由に賃貸条件を悪くすることはできません。このように女性が生きていく上で多くの法律行為をする必要がありますから、女性であることを理由に女性に不利に扱われてはいけないのです。