日本国憲法第24条は世界的に珍しい条項だと書きましたが、実はイタリア共和国憲法には両性の平等の他、婚姻や家族のことについても詳しい規定があります。
なお、イタリア共和国憲法は1947年12月22日憲法制定会議において可決され、1948年1月1日から施行されたので、日本国憲法とはほど同じ時期に制定されたということができます。以下、「解説世界憲法集」(三省堂)から女性、家族に関する条文を引用します。
第3条
① すべての市民は等しい社会的尊厳をもち、法律の前に平等であり、性別、人種、言語、宗教、政 治的意見、人的及び社会的条件によって差別されない。
② 市民の自由と平等を事実上制限し、人格の完全な発展及び国の政治的、経済的、社会的組織へ のすべての勤労者の実効的な参加を妨げる経済的・社会的傷害を除去することは共和国の責務である。
第29条
① 共和国は、婚姻にもとづく自然共同体としての家族の権利を認める。
② 婚姻は、家族の一体性を保障するために法律で定める制限の下に、配偶者相互の倫理的及び法的平等に基づき、規律される。
第30条
① 子供を育て、教え、学ばせることは両親の義務であり権利である。子供が婚外で生まれたものであっても同じとする。
② 両親が無能力の場合は、前項の任務を果たすものを法律で定める。
③ 婚姻外で生まれた子供に対する法的および社会的保護は法律で定める。この保護は適法な家族の成員と両立するものである。
④ 父の捜索に関する規定とその制限は法律で定める。
第31条
① 共和国は、経済的および他の措置により、家族の形成およびそれに必要な任務の遂行を助ける。大家族に対しては、特別の配慮を行う。
② 共和国は母性、児童、青年を保護し、この目的に必要な施設を助成する。
第37条
① 女子勤労者は男子勤労者と同じ権利を有し、等しい勤労につき同じ報酬を受ける。その勤労条件は、女子に不可欠な家政の遂行を可能とし、母親と幼児に特別の適切な保護を保障するものでなければならない。
このように書いてみると、「日本の憲法にもあったらよかったのに」と思う条文もあれば、逆に「この条文はどういう意味だろう?」とか「なぜ、こんな条文ができたの?」と疑問に思うものもあります。また現在、これらの憲法条項がどのように活かされているのかも知りたいところです。
ところで日本国憲法第24条はベアテの草案になるものでしたが、実は彼女は、第24条以外にも多くの女性の権利を書いていたのです。
例えば、
「妊婦と乳児の保育にあたっている母親は既婚・未婚を問わず国から保護される。彼女たちが必要とする公的援助が受けられるものとする。嫡出でない子供は法的に差別を受けず、法的に認められた子供同様に、身体的、知的、社会的に成長することについて機会を与えられる。」
「すべての成人女性は生活のために仕事につく権利がある。その人にあった仕事がなければ、その人の生活に必要な最低の生活保護が与えられる。女性は専門職業および公職を含むどのような職業にもつく権利をもつ。その権利には政治的な地位に就くことも含まれる。同じ仕事に対して男性と同じ賃金を受ける権利をもつ」
などです(1945年のクリスマス:p186)。
しかしベアテの上司のケーディス大佐は「このような具体的な指示は有益かもしれないが、憲法に入れるには細かすぎる。詳細は制定法によるべきだと思う。憲法に記載するレベルのことではないのではないだろうか」という意見をのべ、ベアテの草案を大幅にカットしてしまったそうです(同書:p183)。
なお、このようにカットされたことについて、後日ベアテは「子供や母性の権利については、やはり男性と女性とで関心度が違うのではないかと思った。その関心度の違いが、ケーディスさんと私の意見の分かれるところではないかと考えた」と書いています(同書:p309)。
イタリア憲法では、家族の形成や母性・児童の保護、婚外子の保護、同一価値労働同一賃金を明文で認めていますが、このような条項を入れようとしたベアテに対して上司は反対し明文化されませんでした。1945年頃という同じ時期に、イタリアと日本では、憲法について異なった考えがあったのですね。