1,改正の内容
今年2016年6月1日に民法733条が改正され、6月7日に施行されました。
旧733条は次のとおりでした。
「1項 女は、前婚の解消又は取消しの日から6箇月を経過した後でなければ、再婚することができない。
2項 女が前婚の解消又は取消の前から懐胎していた場合には、その出産の日から前項の規定を適用しない。 」
改正後の733条です。
「1項 女は前婚の解消又は取消しの日から起算して百日を経過した後でなければ再婚することができない。
2項 前項の規定は次に掲げる場合には、適用しない。
1 女が前婚の解消又は取消しの時に懐胎していなかった場合
2 女が前婚の解消又は取消しの後に出産した場合」
2,旧民法
実は旧733条は、明治時代、明治31年(1898年)に制定された条文です。
旧民法では「第767条」にて「女は前婚の解消または取消の日より6ヶ月を経過したるにあらざれば再婚することができない。」と規定されていました。
その趣旨は、旧民法の法典調査会起草委員の梅謙次郎教授によれば、「本条の規定は血統の混乱を避けるためのものだ」ということです。つまり、離婚後に再婚した場合、離婚後に生まれた子が前婚の夫の子か、後婚の夫の子か判断が困難になり、判断を誤れば血統が混乱するというのでした。旧民法の時代は、家父長制といって男系長子のみが家督相続することができるという制度だったので、殊更「血統」が重視されたのでしょう。
この規定がなんと2016年に初めて改正されたというのですから、100年以上も改正されなかったという事実に驚くばかりです。
3,今回の改正
改正により、「6箇月」が「100日」に短縮され、さらに733条の2項を満たす場合、離婚から100日以内でも再婚することができるようになりました。
具体的には、①離婚した日の後に懐胎したという医師の証明書、②離婚した日以後の一定の時期において懐胎していないという医師の証明書、③離婚後に出産したことの医師の証明書などが必要です。そして、このような証明書が添付されれば、婚姻届けを受理されることになるそうです。もちろん医師の診断のためには必要な検査を受けることになりますし、検査する日なども制約があると思われます。
4,最高裁判決と今後の問題
ところで、このような民法改正という事態になったのは、平成27年(2015年)12月16日の最高裁判所の大法廷判決がきっかけでした。
勇気ある女性が、「民法733条は憲法14条1項及び憲法24条2項に違反している」として提訴し最高裁判所まで粘り強く闘ったことの大きな成果なのです。
最高裁判決が「100日を越える部分は憲法14条1項や憲法24条2項に違反している」と判断した理由を少し紹介すると、第1に、医療や科学技術が発達した今日では、旧民法のような観点から一定期間を禁止るすることを正当化することが困難になったこと、第2に、特に平成期に入った後は晩婚化が進み、離婚件数及び再婚件数が増加するなど再婚の制約をできる限り少なくするという要請が高まっていること、第3に、かつては再婚禁止期間を定めていた諸外国が徐々にこれを廃止する傾向になり、例えばドイツでは1998年に、フランスでは2005年にこの制度が廃止されたこと、第4に、婚姻の自由が憲法24条1項の趣旨から十分に尊重されること、第5,妻が婚姻前から懐胎していた子を産むことは再婚の場合に限られないことを考慮すれば再婚の場合には限って再婚禁止期間を設けることは困難であることなどがあげられています。
しかし、仮に100日に短縮されたとしても、男性は再婚することについては、このような制限はまったくなく離婚の翌日に再婚することもできるのですから、女性に対してのみ再婚禁止期間を課すことは、女性の婚姻の自由を制限するものであって、婚姻における女性差別だと思われます。しかも、現在の医学ではDNA鑑定等により容易に決着がつく問題ですから、「血統が混乱する」という事態はおきないと思われます。
ちなみに国連女性差別撤廃委員会は、かねてから、再婚禁止期間については「女性に対してだけ特定の期間の再婚を禁じる規定を廃止すること」という勧告を出し続けており、2016年3月にも同趣旨の勧告をしていました。