2016年2月に「保育園落ちた、日本死ね」という強烈な印象を与えたブログが世に知られ、国会でも取り上げられたうえ、2016年新語・流行語大賞にまで選ばれました。
 そこで保育園について見てみました。
 少し遅い情報ですが、厚生労働省は今年1月、昨年2016年の1年間に生まれた子どもの数が98万1000人だったと発表しました。
 この出生数が100万人を割ったのは、なんと統計を取り始めた1899年以降初めてのことだそうです。ちなみに2014年は100万3539人、2015年は100万5677人だったそうで、一旦、増加はしたものの、基本的には減少傾向は収まらないと予測されています。
 他方、待機児童問題については、厚労省は、今年2017年4月「保育所等関連状況の取りまとめ及び待機児童解消加速化プラン」を発表し、2016年4月現在保育所等定員は263万人で前年比10万3000人増加したこと、待機児童数は2万3553人で前年比386人増加したことなどの報告をしました。
 ところでこの「待機児童」の厚労省の定義は揺れ動いており、2001年には、狭く定義されるようになり、「他に入所可能な保育所があるにもかかわらず待機している児童や、地方単独保育事業を利用しながら待機している児童」については除外することになりました。そのため、2001年4月の統計は2種類でており、新定義では待機児童が2万1000人となったものの、従来の定義では3万5000人とされました。なお、地方単独保育事業とは、無認可保育所ではあるが地方自治体の基準を満たしており、一定の援助を受けている保育所をいうそうです。
 実は、昨年からもう一つの定義の必要性が言われています。それは「潜在的待機児童」「隠れ待機児童」の存在です。昨年の2016年9月厚労省は、統計から除外されている「潜在的待機児童」が昨年2015年より8000人多い6万7354人いたと発表しました。
 この潜在的待機児童とは、親が育児休業中で保育園の入所申請をしていない場合、親が育児のために無職で求職活動をしていない場合、親が特定の保育所を希望しているため自治体の勧める保育所に入所申請していない場合、自治体の認可保育園に入りたいのに無認可保育園に入れている場合などを言います。このようなケースは、厚労省の定義からも除外されているうえ、自治体により定義が異なるので全国的な状況把握ができていないのです。
 厚労省は以前からこのような潜在的待機児童について把握しており、「定義の見直し」を2017年4月から行う予定でしたが、今年はそれを行わず、来年2018年4月以降に集計する分からにするそうです。
 ところで、少子化が進んで子どもの数が減っているのに、どうして保育所が不足しているのか、という疑問があるようです。
 その答えは、やはり厚生労働省が発表したグラフを見れば分かります。
1980年から2016年までの専業主婦世帯と共働き世帯の数を出したグラフがあります。
 1980年から1992年頃までは専業主婦世帯が共働き世帯よりも多かったのですが、1996年頃からなんと共働き世帯の方が多くなっています。私はこれを勝手に「X型グラフ」と呼んでいますが、まるで、1992年頃から1996年頃に2つの線が交差するかのように入れ違っているのです。1980年頃は専業主婦世帯が1100万世帯以上、共働き世帯が600万世帯だったのに対し、2016年には共働き世帯は1129万世帯であるのに対し、専業主婦世帯は664万世帯になり、完全に逆転しました。
 このことは女性の雇用者数をみても明らかで、厚労省の調査では、1980年には女性の雇用者数は1354万人(全雇用者数3971万人の34%)だったのに対し、2016年にはなんと2531万人(全雇用者数5729万人の44%)に増えているのです。
 このように1990年代から特に共働き女性が増えたため、子どもを保育所に預ける必要性が大きくなったのです。
 しかも働いている女性は十分な賃金を貰っているかと言えば、そうでもありません。
 例えば、2015年の総務省調査をみると、全雇用者数5474万人のうち、短時間雇用者は1634万人(全雇用者の約30%)いますが、その1634万人のうち女性は1110万人(全短時間雇用者の67.9%)なのです。時給については地域によってばらつきがあるようですが、愛知県では平均時給967円となっていて全国平均975円よりも安くなっています。ただし私が見た感じでは時給850円でパートを募集している店舗も結構あるようで、愛知県の最低賃金845円とほぼ同額です。
 ちなみに厚労省の統計では短時間雇用者というのは、「1週間の就業時間が35時間未満の者」とされているので、週休2日の会社の正社員の週の所定労働時間と同じですね。
2008年にアメリカでおきたリーマンショックの影響を受け日本の経済は大きな打撃を受けました。さらに2012年に発足した安倍内閣は大企業や富裕層優先のトリクルダウン理論を柱とするアベノミクス政策を強行し続け、日本の経済はデフレ不況が続いたままです。そのため日本の貧困率は世界4位というありがたくない地位を占めることになりました。
 女性が働かないと生活はやっていけないのが現状なのです。
 このような事情から働く女性にとっては保育園は不可欠なので、結婚する頃から家の近くに保育園があるかないか気にしたり、妊娠が分かったときから認可保育園探しを始めたり、いろいろな保育園の評判を調査したり、今は「保活」と言われていますが、本当に大変なのです。
 「子どもができたら仕事をやめればいい、と考えている女性は少数派」が実態なのです。
 ちなみに今年2017年5月18日、名古屋市は、「今年4月1日現在、国の定義に基づく待機児童は0人だったが、特定の保育所等の利用を希望されている等により保育所、認定こども園、地域型保育事業が利用できていないわゆる隠れ待機児童が715人となった」と発表しました。この715人という数字は昨年の585人よりも増え、2割増しになっています。